大陸の片隅にある小国
大陸の地図を広げて、目を凝らしてみてください。
大きな国々の名前が勢いよく並んでいる、
その片隅に、けわしい岩山と乾いた砂地に挟まれた、
とても小さな地域があります。
トリットリ連邦です。
昔、この場所に国はありませんでした。
いくつかの小さな集落が離れて存在していて、
住まう小鳥たちはそれぞれの巣のまわりで、
身を寄せ合うように暮らしていました。
けれど、井戸が枯れてしまったら、
一つの集落だけでは掘り直せません。
道が砂に埋もれてしまったら、
一羽だけで荷物を運ぶこともできません。
ですから小鳥たちは少しずつ、
集落の境を越えて助け合うようになりました。
水を分けあって、食べ物を運び、
働けなくなった小鳥の代わりに道具を持ちました。
そうして結ばれたいくつもの集落が、
やがて一つの連邦になりました。
もちろん国ができたからといって、
土地が急に豊かになったわけではありません。
売り出すものが必要だと考えた小鳥たちは、
けわしい岩山の中に国営第一鉱山を開いて、
広い砂地には砂漠採集局を設置しました。
力を合わせて坑道を掘ったり、
汗をかきながら砂を集めたりして、
大陸でも珍しい資源を見つけることができました。
トリットリ連邦には資源があることを、
国民たちは確信することができたのです。
トリットリ連邦が徐々に発展していくなかで、
国営発電所を建設する計画も立てられました。
しかしその計画図は、しばらく経った今も、
中央労働局で大切に保管されています。
今のトリットリ連邦には建設を実現する技術や、
そのための設備がまだ十分にないからです。
小鳥たちが職場で使うツルハシも、スコップも、
いのちを守ってくれる黄色いヘルメットも、
作業のために必要な品質を確保するために、
ほかの国から輸入されているものなのです。
届いたばかりのヘルメットには、
トリットリ連邦の印がありません。
だから小鳥たちは、新品のヘルメットを木箱から一つずつ取り出して、
その正面に丸い小鳥のバッジを取り付けます。
仕事道具だけではありません。
連邦国民が生活のなかで必要とする物資の多くは、
今も輸入に頼っています。
鉱山で得たものを大陸の外へ送り、代わりに、
次の労働と暮らしに必要なものを買い入れる。
トリットリ連邦で産出したものの多くは、
国を豊かにする投資の前に、
国を明日まで動かすために使われていきます。
ですから小鳥たちが懸命に働いても、
巣がすぐに大きくなるわけではありません。
夕食が一品増えるのには、まだ遠いのです。
そしてある年の集計によって、トリットリ連邦は、
大陸でもっとも低いGDPを記録しました。
一九一万二千二百トリット。
その知らせを聞いた日も、
翌朝になれば、小鳥たちは巣から出てきました。
輸入されたヘルメットをかぶり、
自分たちで付けた小さなバッジを正面に向けて、
勇んで鉱山や砂漠へ歩いていきました。
労働がすぐに豊かさを生むわけではないけれど、
みんなのために一歩を踏み出すことは、
絶対に無駄にならないことであると、
トリットリ連邦のみんなが知っていたからです。
小さくて、よく働く。
それがトリットリの誇りです。
小鳥たちの暮らし
トリットリ連邦の小鳥たちは、
岩山と砂地のあいだに点在する、
いくつもの巣の集落で暮らしています。
それぞれの小鳥たちの巣はどれも、
そんなに大きなものではありません。
強い風で屋根が崩れたときには、
近くに住む小鳥たちが集まって、
枝や草を運びながら一緒に修理します。
国ができるよりも前から続いている、
トリットリの助け合いの習慣です。
朝になると、働ける小鳥たちは、
黄色いヘルメットをかぶって巣を出ます。
岩山へ向かう小鳥はツルハシを持ち、
砂地へ向かう小鳥はスコップを持ちます。
どちらの道具も小鳥の体には少し大きいため、
ふらふらと揺れながら歩く小鳥もいます。
それでもヘルメットの正面に付いたバッジだけは、
みんなきちんと前を向いています。
国営第一鉱山では、
岩を叩く音が坑道の奥まで響きます。
坑内を明るくするのにも、今なお苦労しています。
砂漠採集局では、
小さな足が砂に埋まりながらも、
小鳥たちは根気よく地面を掘り続けます。
赤いダイヤモンドや隕石ガラス、
大昔の恐竜の化石が見つかることもあります。
珍しいものを掘り当てた小鳥のまわりには、
たちまち大きな鳥だかりができます。
休憩の時間になると、
小鳥たちは日陰へ集まります。
水を飲んだり、持ってきた食べ物を分けたり、
建設予定の国営発電所について話したりします。
発電所ができたら、どんな仕事をするのか。
夜の集落は、今より明るくなるのかな?
中央労働局に保管された計画図を、
実際に見たことのある小鳥はほとんどいません。
それでも休憩中には、
完成したあとの話ばかりが少しずつ増えていきます。
勤務を終えた小鳥たちは、
使った道具を所定の場所へ戻して、
それぞれの巣へ帰っていきます。
ご飯を食べて、十分に眠った小鳥には、
中央労働局から労働証明書が発行されます。
そこには、その小鳥が一日の労働によって、
連邦にどれだけの成果を残したのかが記されています。
素晴らしい成果を記した証明書があっても、
その小鳥が住むための巣が大きくなったり、
特別に夕食が一品増えるわけではありません。
それでも小鳥たちは証明書を大切に保管して、
ときどき仲間と見せ合って笑うのです。
小鳥たちにとってその証明書は、
今日もこの国を動かしたのだという、
自分たちだけの足跡のようなものです。
中央労働局から国民の皆さまへ
国民の皆さまには日頃より、
連邦の発展にご協力いただき、
中央労働局より心から感謝申し上げます。
残念ながら現在のトリットリ連邦には、
足りないものがまだたくさんあります。
最新鋭の設備も、十分な食料も、
必要とするすべての国民のもとに、
完全に行き渡っているわけではありません。
しかし幸いなことに、働く場所はあります。
国営第一鉱山には、
まだ叩かれていない岩があります。
砂漠採集局には、
まだ掘られていない砂があります。
そして中央労働局には、
まだ実現していない計画があります。
一羽の小鳥が一日に残せる成果は、
大陸の大国から見れば、
ごく小さなものかもしれません。
けれども、国民一羽一羽が残した成果は、
中央労働局によって正確に集計され、
トリットリ連邦のGDPへ加えられます。
労働の成果は、必ず積み上がるのです。
勤務を終えた国民は、道具を所定の場所へ戻し、
ご飯を食べて、十分に眠ってください。
疲れたまま次の勤務へ向かうことは、
連邦労働規則によって認められていません。
よく働き、よく眠ること。
そのどちらも、
明日のトリットリ連邦をつくるために
欠かすことのできないものです。
今後とも、無理のない範囲で、
最大限のご協力をお願いいたします。
トリットリ連邦中央労働局
入国したあなたへ
ここまで読んでくださったあなたは、
すでに、大陸の片隅にあるこの国を見つけた、
一羽の小鳥です。
トリットリ連邦への入国に、
難しい手続きは必要ありません。
どこから来たのかも、
これまで何をしていたのかも、
中央労働局が尋ねることはありません。
見学だけでも歓迎します。
働いていただける場合は、
もっと歓迎します。
黄色いヘルメットと仕事道具は、
中央労働局が用意しています。
鉱山へ向かうか、
砂漠へ向かうかは、
あなたが自由に選ぶことができます。
あなたが残した成果も、
この国で暮らす小鳥たちの成果と一緒に、
トリットリ連邦のGDPへ加えられます。
一度の勤務で、
この国が豊かになるとは限りません。
それでも、あなたが踏み出した一歩は、
この国が明日へ進んだ一歩として、
確かに記録されます。
大陸の片隅にある小さな国で、
今日も小鳥たちが待っています。
トリットリ連邦に栄光あれ。